東日本大震災を受けて、去年、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の新たな被害想定が公表された。被害が広範囲にわたるため、私たちのもとには一週間にわたり公的救助が来てくれなくなる恐れがあり、人々は自力で救助したり避難したりすることを迫られている。神戸市消防局は引き上げられた想定を前に、「初動では、救助の要請があっても全勢力を消火活動に振り向ける」という方針を住民に伝えている。苦渋の決断の背景には、19年前の阪神・淡路大震災のとき、消火と救助の双方に追われ、効果的な対応ができなかったという苦い教訓がある。消防がこうした方針を周知するなか、住民だけで救助や避難ができるよう訓練を重ねている地区がある。長田区の真陽地区である。地域が連携し、身近にあるものを最大限活用して救援活動を行う体制作りを進めている。一方、静岡では、住民自らが負傷者の中から一刻を争う重傷者を選び出し、病院に搬送するという取り組みを進めている。活動の中心となっているのは、阪神・淡路大震災のとき、兵庫県西宮市に応援に入った医師。病院の混乱によって救えたはずの命が救えなかったのではないかという思いを胸に刻み、住民と模索を続けている。公的救助が来ないとき、一人でも多くの命を救うためにはどうすればいいのか。阪神・淡路大震災の教訓を胸に、模索を続ける最前線の取り組みと課題を追う。